バリ舞踊では、自然界の動物や虫などの生活をモチーフにした作品が多い。
レゴン・クプクプ・チャルム舞踊は、レゴン舞踊の中でも「蝶」をモチーフにしたユニークな作品だ。
Tari Legong Kupu-kupu Carum by Sanggar Sri Padma Br.Kalah Peliatan
さなぎの中から蝶が飛び出し、新しく得た羽を楽しそうに羽ばたかせて、あちこちを飛びながら
蜜を吸い、仲間と戯れ、そしてその短い生涯を終えるまでを描いてある。
このレゴン・クプクプ・チャルム舞踊は、古典舞踊である。
新しく創作されるバリ舞踊は、動きだけでなく、衣装や小物で何がテーマなのかを判り易くしているものが多いが
古典的なレゴン舞踊は、衣装がどの作品もほぼ同じ。動きでキャラクターを表現していく。
このレゴン・クプクプ・チャルム舞踊も、特徴的な扇子の動きで蝶の羽をあらわす。
レゴン・クプクプ・チャルム舞踊は、バリ島ギアニャール県のブドゥル村とプリアタン村のタガス・カンギナン地区で踊られていたが、現在は、踊られる機会が少なくなったレゴン舞踊。
しかし、ある御縁があって、先日プリアタン村のバンジャール・カラー地区で寺院祭オダランが行われた際、サンガル・スリ・パドマの子供達によって踊られ、奉納された。
この寺院祭でのレゴン・クプクプ・チャルム舞踊が奉納される数ヶ月前、
レゴン舞踊を愛するマエストロ「ブラントリシュナ・ジェランティック」女史からの電話を受けた。
女史は現在ジャワ島に住んでおり、レゴン・クプクプ・チャルム舞踊を時々自分の公演で踊っているが、音源にノイズが多く、クオリティが良くないので
来週バリ島を訪れる際に録音したいから、ブドゥル村へ行って、楽団のリーダーの名前を調べ、連絡先を聞いてきて欲しい。との内容の電話だった。
翌日ブドゥル村を訪ね、その楽団のリーダーを探したものの、現在、楽団のメンバーは多忙で、7ヶ月以上活動を行っておらず、短期間(録音したいのは3日後だった)で演奏の練習をするのは難しいとのこと。
ブドゥル村からの帰途、念のためタガス・カンギナン地区へも寄ってみた。
以前 m (mayumi)がこの地域に住んでいた頃、レゴン・クプクプ・チャルム舞踊(この楽団のカセットにはKupu-Kupu Carumと記載されている)を習いたくて踊れる人を探した際、見つからなかった事があるので、あまり期待していなかったが、やはり、タガス・カンギナン地区の楽団グヌン・ジャティも現在はレゴン・クプクプ・チャルム舞踊は演奏していないとの事。
このため、女史が希望していた録音は、今回見送ることとなった。
数日後、バリ島を訪れた女史は、f studioに足を運んでくれた。
f studioで女史はレゴン舞踊のことについて m と熱く語った。
女史は少女時代プリアタン村の踊り子であったが、その頃レゴン・クプクプ・チャルム舞踊を見たことがなかったそうだ。
縁あってレゴン・クプクプ・チャルム舞踊を習う機会を得て、現在は時々踊っているが、自分にとって、とても魅力的なレゴン舞踊だとのこと。
この舞踊を演奏する楽団が無いのは残念、どこかプリアタン村の楽団で練習して踊ることはできないか?という話にまで及び、女史は m にレゴン・クプクプ・チャルム舞踊の特徴的な動きなどを解説してくれた。
そしてそのまま、手元にあったグヌン・ジャティ楽団のカセット・テープを使っての舞踊の指導となった。
なんとステキなレゴン舞踊だろう・・・7~8年前 m は一度この舞踊を目にした事はあったが、自分で動いてみると、緩やかさと激しさの両方を持つレゴンというのが更に良く判った。
Tari Legong Kupu-kupu Carum
この日、女史とは夕方近くまで話をし、デウィ・スリ楽団でレゴン・クプクプ・チャルム舞踊を演奏する事ができないだろうか?
という流れになった。
デウィ・スリ楽団は、 f と m が在籍する楽団で、スマル・プグリンガンというレゴンに最適な楽器編成で、これまでもレゴン・クントゥール、レゴン・スマランダナ、レゴン・ジョボグなどを演じてきたレゴン舞踊が得意な楽団である。
tari legong kupu-kupu carum
それからさらに日が経って、
このアイディアは、デウィ・スリ楽団のリーダーであるイ・マデ・スカンダ氏からも熱い支持を受け、我々は女史から教えられた舞踊だけでなく、古い資料からも、このレゴン舞踊の音を興す運びとなった。
Mr. I Made Sukanda and f
太鼓を叩くスカンダ氏と、グンデルを演奏する f とで大きな流れを掴んだ後
楽団のメンバーを集めてププソン、プンガワ、プンゲチェッそしてプカーッドまでが一気に練習された。
女史から教えられたアンセルの取り方や、コンポジションを m が楽団の前で踊ってみせて
太鼓がそれを見ながら合図をだし、楽団と音を作っていくのだ。
楽団が音を興していくのと平行して、 m はf studioに生徒達を集めてレゴン・クプクプ・チャルム舞踊を指導した。
舞踊の動きから、これは体の小さい子の方が向いているのでは?と感じたため、サンガル・スリ・パドマの中でも第2世代のグループを選んだ。
楽団が音を興すのに、踊り手のコンポジションも重要である。
m が一人で踊ってみせるよりも、複数の踊り手がいたほうが、楽団にも判りやすい。
そこで、出きるだけ早く生徒達が踊りを覚えてマドゥンガン(楽団と踊り手の合同練習)が出来るよう、毎日学校帰りにf studioに寄っての特訓となった。
Tari Legong Kupu-kupu Carum by Sanggar Sri Padma Br.Kalah Peliatan
踊りと音あわせが進み、曲が完成した頃、楽団側で、次のオダランで試そうという流れになった。
そして、9月28日。
スリ・パドマの生徒達が住むバンジャール・カラー地区の寺院で寺院祭オダランが行われた際、この舞踊が子供達によって初披露された。
短期間で準備したので、まだ完全な舞踊ではない。
子供達の踊る様子をブラントリシュナ女史にビデオで見てもらったが、扇子の動きの緩やかな部分と、激しい部分が、まだ習得できていないから直すように。
という指示ももらった。表情の作り方が、まだ硬いという指摘も頂いた。
この後、女史がバリ島に来る11月、自分が直接子供達にレゴン・クプクプ・チャルム舞踊の練習をつけてあげようと言う申し出まで頂いた。
スリ・パドマの生徒達がマエストロと触れる機会を持てるのは素晴らしい!とても楽しみだ。
Tari Legong Kupu-kupu Carum by Sanggar Sri Padma Br.Kalah Peliatan
“Senang sekali dari ide menjadi kenyataan. Kita telah menggerakkan roda revitalisasi”
(私の発想が実現するなんて嬉しいわ。私たちは車輪を再回転し始めたのよ。)
上の台詞はバンジャール・カラー地区の子供達が、女史の指導したレゴン・クプクプ・チャルム舞踊を踊ることになった際
ブラントリシュナ・ジェランティック女史から頂いたコメントである。
この有難い言葉を聞いて、我々のモチベーションも再燃した。
サンガル・トゥナス・マラガウィのオリジナル・バージョンとして、蝶の触角をつけたグルンガン(冠)
これから踊り子として育っていく子供達が、ますます練習に励んで
いつかレゴン・クプクプ・チャルム舞踊を、そしてバリ舞踊を、自分の中で完成させて欲しいと願う。
Salam Legong,,,