以前、新品の他人の持ち物に名前を書くという体験をしたことがあります。今回、名前こそ書き込みませんでしたが(モノがモノだけに…)
新品の御神体を使い初め!
という貴重な体験をさせてもらいました。
聖獣バロン1体、魔女ランダ2体を新しく揃えた楽団が、村にあるグヌン・サリ寺院という寺の祭事(オダラン)で、使い初めの奉納舞です。
グヌン・サリ寺院は、水利関係の寺院らしいですが、パンジという芸能の神様が祀られていて、地元では踊り子が熱心に通う寺院として知られており、私も御多分に洩れず、熱心に御祈り(スンバヤン)をしている寺院です。
その踊りの神様の前で、新品のランダを使って、舞踊「レゴン・スマランダナ」を踊る事になりました。ひゃっほう!
私 m の相方は、テリアシ(テリィ)というレゴン舞踊家。
その昔、ユリアティ嬢と一緒にランケサリ姫をよく踊っていた姫専門のテリィですが、今回のラティ女神の役は「saya tidak berani=私、度胸が無いわ・・・」プリアタン・スタイルのレゴン・スマランダナでは、ラティ女神が一旦引っ込んで、ランダ姿でシワ神として再登場するんですが、どうも仮面を着けるのが怖いらしい。
男役スマラ神の私に役を代わってくれと・・・横で聞いていた演奏者達「楽団が所有するランダだから、寺院に祀るのでないし、チャロナラン(悪魔払い)で使うために創ったランダだから、安心しろ」いえいえ、チャロナランって、寺院に祀ってある御神体も、しょっちゅう踊るでしょうが、位置付けが違うけど、何となく似たようなもんだから、彼女は憑依とか祟りが怖いんでは??
で、怖い者知らずと勘違いされて、こちらに回ってきた姫役=シワ神役。
いや、私も怖いですよ。
ただ、新しいから、まだ怨念なぞ憑いて無さそうなんで、受けます。頑張りますよ~!
頑張って踊るというより、頑張って暴れる!ですかね?ランダが瞑想から覚めるシーン以降…
【念のため】一応、私はバリ・ヒンドゥ教徒です。なので、御神体おろしOKなんだそうです。
ランダ所有者からそう言われたので引き受け、入魂の御払いの時から儀式には参加しました。私の文章の書き方から勘違いされる方が居るかもしれませんが、ふざけてはおりません。
司祭(偶然、グヌン・サリ寺院)を呼んで儀式を行い、入魂も済ませ準備万端の仮面群使い初めという有り難い役を引き受けた、そのランダの仮面(仮面プラス毛)ですが、チャロナラン用というだけあって、2体ともおっさん仕様の大きさです。
レゴン・スマランダナ舞踊で使うのは、普通ここプリアタン村では軽い仮面(+毛)らしいです。
他の地域は、シワ神のシーンだけ男性舞踊家がランダ姿でシワ神専門に登場という話です。
私が使う予定なのは、写真左の白ランダ。同じ日の奉納舞踊劇で中央のバロンと対決する予定の右の茶色いランダは、地域では有名な(すぐにトランスするという意味で)別の男性舞踊家が着用しての、使い初めだそうです。茶ランダ君は、初トランスでもあるわけですね。
おっさん仕様の時点で、そもそも、女性には無理があるんでは?と多少思うんですが、ほら、私、負けず嫌いだから・・・しかし、頭部は大きすぎてブカブカ。
仮面の目の位置に、私の口が来るようなブッカブカ。
そして、フサフサとした毛の固まりを、身長150cmの私が着けると、もう、モップ以外には全く例えが浮かばないような位の「完璧なモップ」状態。
いつもは背が低いことにバリ舞踊家として優越感が持ててたのですが、今回ばかりはデカく育ちたかった。
毛の白さも、ますますモップ度を誇張する手伝いをしてくれます。
レゴンなので、もちろん前半は華麗に踊ります。テリィ(←左)と私(右→)
どこまでも驚異的に広がる「毛の固まり」。回転する時、あらぬ方角に飛ばされぬ努力も必要
とにかく前も下も見えないから、門から追い出す予定の相方を、壁に押しつけそうに…
無事に初奉納が済んだ後日
「茶ランダ君が、あの日本人、よく脱げなかったな、ランダの仮面、両方ともアゴヒモ着け忘れてるよ。ってさ」と演奏者が教えてくれました。
そうだったんだ~。
あの時、手伝ってくれた衣装係もランダ着用法は判らないそうで、とにかく頭部にタオルや新聞押し込んでくれて、それでも重さでズレてくるから、その辺の段ボール箱をちぎって詰めたんだわ…
このランダは、仮面のみタガス村の木彫り師P氏が作り、毛の装着や、頭の竹枠は衣装屋のRさん(そう、日本人には有名な、あの)担当という事で、Rさんにアゴヒモの相談
R「あ、あれ使ったの?うわ~」
ち「ちょっと重かった、首が痛い」
R「ちょっとじゃないよ、すごく重いよ、普通の2倍ある、20キロ以上ある」
ち「え゛(20キロは大げさだろ)」
いつも「ダイジョブ~!」とエディ・マーフィーのようなニコヤカせで笑いとばすRさんでも「大丈夫」と言えない重さだったらしいです。
私、髪の毛振り乱してランダの舌を肩に乗っけてるし、後方には白い変な光線写ってるし。怖
あごひもの方は、グルンガン(冠)と同じだから、タイヤのゴムで自分でつけられるというので、修理にかかりましたが、竹や皮やゴムって、縫い針が全然通らないのね…はからずも神経と体力を使う、ヨレヨレになりながらの作業でした。
後方で「あ~っ」て、一緒にエビぞった気になって見てるおばちゃん、感謝!
この「カヤン」というエビ反りの動き、大変なのよ~。
このシーンでは手に銀皿ボコールを持ってて、その花を落とさない様に左手を固定しながら、右手に厄除けの布を持ちつつ、仮面が脱げないように頭も押さえるっちゅう、超アクロバティックな動き。見た目より、とっても難しいんだから~! 是非ともオリンピック競技に入れて欲しい。
暴れるので、係の人に強制連行される図にしか見えないですが、出口が見えないんですぅ・・・
「毛」の方は、踊りこんで行くうちに、どんどん脱毛して軽くなるらしいです。作ってしばらくは、湿気で重いが、そのうち乾いて軽くなる。とも・・・
この後も何度か白ランダ着用しましたが、今思えば、一番重たい時に被ったんですよね・・・
最初は重さの為の頚椎症発症か、あるいは祟りか?と思う様な激痛が肩に出たんですが、今では「重っ・・・」くらいで、特に何も無し。慣れ?
移動の時にランダを持ち上げる楽団員達も「アド!」と言うくらい、まだ、かなり重いんですが、あと、何回踊ればスカスカの毛に???
【ランダ踊り込み目標1 「怖さで子供を泣かす」】
【ランダ踊り込み目標2 「毛が軽くなったらエビ反りで床に手をつく」】
【ランダ踊り込み目標3 「毛が軽くなったら華麗なる2回転ターンを決める」】
こちら某楽団のレゴン・スマランダナ
男性用ですが舞台用に軽めに作ってあるそう。更に、うらやましい抜け毛具合。
小学生用のランダ ああ、これ借りれたなら・・・
あああああ、これ~これ~!!!
通常ランダは魔女なので「女性」です。
ランダとしての衣装には、垂れた巨大なおっぱいも付いてます。
ワタクシ、一応女性なので、男性の気持ちは判りませんが、周辺のバリ人男性がランダのことを「cantik=可愛い」と褒めるんです。
携帯の待ち受け画面にしている演奏者も、時々みかけます。
おどろおどろしい表情に彫ってあるように見えるのですが「●●寺のランダは可愛いよね」とか言うのを聞くと、毎回不思議な気分になります。
女性には見えない何かが、男性には見えているんでしょうか?